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カスハラ対策の義務化は介護も対象|2026年10月1日までに整える5つの準備

2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、すべての事業主に義務づけられます。
介護事業所も対象です。
根拠は介護報酬改定ではなく、改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)にあります。
事業主が講じるべき措置は、カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)で10項目に整理されています。
介護分野ではすでに職場のハラスメント対策が義務づけられており、今回はその枠組みに、利用者や家族からの理不尽な言動への対応が重なる形になります。
この記事では、指針の10措置を事業所で実装するための実務上の準備例を、次の5つに整理します。
- 防止方針・規程の整備
- 相談窓口の設置
- 記録様式の整備
- 職員研修
- 職員・利用者などへの周知
なお、記録様式の作成、研修そのもの、利用者・家族への周知、運営規程への記載は、それぞれが独立した法定義務として10措置に列挙されているものではありません。
法定義務の内容と、その実装方法を分けて確認しましょう。
これらの準備に必要な制度知識と実務を、以下の順に整理します。
- 対象範囲と既存対策との違い
- 10の措置
- 作成する文書
- 相談窓口と記録の体制
- 実習生への対応
- 施行日
なお、カスハラの定義や具体的な事例、認知症との線引き、発生時の初動対応は既存記事「介護ハラスメント完全ガイド」で詳しく扱っています。
今回は制度対応と文書整備に絞って解説します。
内容は2026年8月時点で確認した公的資料にもとづくものです。
最終的な判断は一次情報でご確認ください。
- カスハラ対策の義務化は介護事業所も2026年10月1日から対象になる
- カスハラ対策義務化の対象範囲と、既存のハラスメント対策との違い
- カスハラ対策の義務化で介護事業所が講じる10の措置
- カスハラ対策の義務化で押さえる防止指針の対象範囲と判断基準
- カスハラ対策の義務化に向けて防止方針と関連規程を整えよう
- カスハラ対策の義務化に向けて事業所内の相談窓口と記録様式を整えよう
- カスハラ対策と同時に義務化される「求職者等」へのセクハラ対策もあわせて確認
- カスハラ対策における職員研修の位置づけと記録方法を決めよう
- カスハラ対策の義務を怠った介護事業所が抱えるリスク
- カスハラ対策義務化への準備を2026年10月1日から逆算しよう
- カスハラ対策の義務化と介護に関するよくある質問
- 【まとめ】カスハラ対策の義務化に向けて介護事業所が今日決めること
カスハラ対策の義務化は介護事業所も2026年10月1日から対象になる

カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化は、2026年10月1日より労働者を雇用するすべての介護事業者に適用されます。
労働者を雇用していれば、事業規模や法人格を問わず例外はありません。
今すぐ具体的な準備を進めましょう。
【制度の基本概要】
- 対応責任者の決定(誰が統括・判断するか)
- 相談窓口担当者の選定(職員が相談しやすい体制づくり)
- 防止方針文書の策定期限の設定(いつまでに明文化・周知するか)
以降では、義務化の背景や法的根拠、具体的な対応手順について順を追って解説します。
カスハラ対策義務化の対象範囲と、既存のハラスメント対策との違い

カスハラ対策義務化の根拠は、介護報酬改定ではなく改正労働施策総合推進法です。
介護事業所ではすでに職場のハラスメント対策が義務づけられており、今回はその上に利用者・家族などからの言動への対応が重なります。
既存の対応との境目を取り違えると、同じ作業を二度おこなうことになります。
対象範囲と既存対策との違いを、次の6点で確認します。
- 改正労働施策総合推進法と防止指針が根拠
- 訪問介護・通所介護を含む労働者を雇用するすべての介護事業者が対象
- 「介護報酬改定で義務化される」という説明との違いを見分ける
- 令和3年度改定で義務になった職場のハラスメント対策を振り返る
- これまで「望ましい」とされていたカスハラ対応が「義務」に変わる点を押さえる
- すでにある方針・相談窓口のどこを作り替えるか切り分ける
重複作業を避けるため、既存の取り組みから点検してください。
改正労働施策総合推進法と防止指針が根拠
今回のカスハラ対策義務化の根拠は、労働施策総合推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号。令和7年6月11日公布)です。

出典:厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律の概要(令和7年法律第63号、令和7年6月11日公布)」
事業主が講じるべき措置の中身は、厚生労働省の「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」で定められています。
制度の概要は、厚生労働省のリーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」にまとまっています。
相談先は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。
訪問介護・通所介護を含む労働者を雇用するすべての介護事業者が対象
義務の対象は、労働者を1人でも雇用しているすべての事業主で、企業規模・業種・法人格による適用除外はありません。
訪問介護・通所介護・施設サービスのいずれも、法人格を問わず対象になります。
さらに指針では、カスハラをおこなう側である「顧客等」の範囲に、
施設の利用者(駅・空港・病院・学校・福祉施設・公共施設等の施設を利用する者をいい、今後利用する可能性のある者も含む。)その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者を指し、例えば、以下の者等が含まれる。
引用:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
- 事業主が販売する商品の購入やサービスの利用をする者
- 事業主の行う事業に関する内容等に関し問い合わせをする者
- 取引先の担当者
- 企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者
- 施設・サービスの利用者及びその家族
- 施設の近隣住民
が明記されており、介護施設・事業所の利用者やその家族からの言動が対象になることは文言上も明確です。
「介護報酬改定で義務化される」という説明との違いを見分ける
「2026年度の介護報酬改定や運営基準の改正でカスハラ対策が義務化される」という解説も見られますが、正確ではありません。
令和8年度の介護報酬改定(臨時報酬改定)は改定率+2.03%(処遇改善分+1.95%、食費引上げ分+0.09%)が中心で、カスハラ対策を運営基準上の義務として位置づける改正は、2026年8月8日時点で確認できません。
今回の義務化は労働法上(2026年10月1日施行)の措置義務であり、介護保険法にもとづく運営基準上の義務とは別のものです。
混同が生じやすい背景には、令和3年度介護報酬改定で、パワーハラスメントとセクシュアルハラスメントの防止措置が運営基準上すでに義務化された一方、利用者・家族などによるカスハラ対策は「講じることが望ましい」とされ、推奨にとどまった経緯があります。
つまり、介護分野の運営基準にはハラスメント対策の規定自体はあるものの、現時点でカスハラは義務ではありません。
この違いが、今回の労働法上の義務化と、介護報酬改定・運営基準改正を混同した説明につながっていると考えられます。
なお、2027年度(令和9年度)の介護報酬改定に向けては、カスハラ対策をすべての介護事業者に義務づける方針が社会保障審議会介護保険部会(2025年10月27日開催)で示されています。
ただし、2026年8月時点では方針の段階にとどまっており、運営基準を改正する省令は出ていません。
参考:厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」
参考:WAM NET「令和8年度介護報酬改定のポイント」
令和3年度改定で義務になった職場のハラスメント対策を振り返る
介護分野では、令和3年度(2021年度)の介護報酬改定にともない、運営基準において職場内のハラスメント防止措置が規定されました。
現在はすべての介護サービス事業者に対し、以下の2点が義務づけられています。
【義務づけられている2つの措置】
- 事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
令和3年度介護報酬改定では、全ての介護サービス事業者について職場のハラスメント防止措置が運営基準に規定されました。
なお、労働施策総合推進法上のパワーハラスメント防止措置は、中小事業主について2022年4月1日から義務化されています。
職員間で発生するパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなど、内部ハラスメントへの具体的な防止手順や運用の詳細は「介護ハラスメント完全ガイド」にて詳しく解説しています。
これまで「望ましい」とされていたカスハラ対応が「義務」に変わる点を押さえる
利用者・家族などからの著しい迷惑行為への対応は、これまでパワーハラスメント防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)で「防止のための方針の明確化等の必要な措置を講じることが望ましい」とされ、推奨にとどまっていました。
今回の法改正で、この「望ましい取組」が労働法上の措置義務に格上げされます。
既存の対策を整えている事業所でも、利用者・家族などからの言動への対応を明示的に定めていなければ、今回の義務を満たしたことにはなりません。
今後は、現場の裁量や我慢に委ねるのではなく、事業所として職員を守る体制を整える必要があります。
参考:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」
すでにある方針・相談窓口のどこを作り替えるか切り分ける
すでに方針や相談体制を整えている事業所は、ゼロから作り直す必要はありません。
流用できる部分と、カスハラ向けに追記・新設する部分を切り分けてから着手しましょう。
| 既存の取り組み | 流用できる部分 | カスハラ向けに追記・新設する部分 |
|---|---|---|
| ハラスメント防止方針 | 基本姿勢・体制の枠組み | カスハラの定義と対応方針、悪質な事案への対処 |
| 相談窓口 | 窓口の仕組み・担当者 | カスハラの相談も受け付けることの明示と周知 |
| 就業規則・研修 | 関連規定・研修の枠組み | カスハラ対応の周知内容、窓口担当者向けの対応手順 |
既存文書の棚卸しからはじめると、作業量を最小限に抑えられます。
カスハラ対策の義務化で介護事業所が講じる10の措置

カスハラ防止指針では、事業主が講ずるべき措置を10項目定めています。
この記事では、内容の近い項目をまとめ、次の5つに分けて確認します。
- 方針を明確にして職員へ周知・啓発する(措置①②)
- 相談窓口を定めて担当者が対応できるようにする(措置③④)
- 事実確認・被害者への配慮・再発防止を迅速におこなう(措置⑤⑥⑦)
- 特に悪質な事案への対処方針をあらかじめ定める(措置⑧)
- 相談者のプライバシーを守り、不利益に扱わないと定める(措置⑨⑩)
一部だけを整えても、義務を果たしたことにはなりません。
10項目のうち未着手のものがないか、順に確認していきましょう。
方針を明確にして職員へ周知・啓発する(措置①②)
措置①は、カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護するという事業主の方針を明確化し、職員に周知・啓発することです。
措置②は、カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を職員に周知することです。
対処の内容としては、管理監督者に指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部などへ情報共有するといった例が示されています。
参考:厚生労働省「厚生労働省告示第五十一号」
相談窓口を定めて担当者が対応できるようにする(措置③④)
措置③は、相談窓口をあらかじめ定めて職員に周知することです。
措置④は、窓口の担当者が相談に対して適切に対応できるようにすることです。
窓口を決めるだけでは足りず、誰に相談すればよいかが職員に伝わり、担当者が相談を適切に扱える状態までが求められます。
この2つは分けて点検してください。
参考:厚生労働省「厚生労働省告示第五十一号」
事実確認・被害者への配慮・再発防止を迅速におこなう(措置⑤⑥⑦)
カスハラが発生したあとの措置として、
措置⑤事実関係を迅速かつ正確に確認すること
措置⑥被害を受けた職員に対する配慮のための措置をおこなうこと
措置⑦再発防止に向けた措置を講ずること
が定められています。
報告を受けてから誰が事実確認をおこない、被害職員への配慮と再発防止をどう進めるかという流れを、あらかじめ決めておきましょう。
発生してから考える体制では、迅速な対応はできません。
参考:厚生労働省「厚生労働省告示第五十一号」
特に悪質な事案への対処方針をあらかじめ定める(措置⑧)
措置⑧は、対応の実効性を確保するための抑止措置です。
特に悪質と考えられるカスハラについて、対処の方針をあらかじめ定めて職員に周知し、実際にその対処をおこなえる体制を整備することが求められます。
どのような言動を「特に悪質な事案」として扱うのか、また、誰の判断でどの対処へ進むのかを、方針のなかに明記しておきましょう。
参考:厚生労働省「厚生労働省告示第五十一号」
相談者のプライバシーを守り、不利益に扱わないと定める(措置⑨⑩)
措置⑨は、相談者などのプライバシーを保護するための措置を講じ、その内容を職員に周知することです。
措置⑩は、相談したことなどを理由として不利益な取扱いをしない旨を定め、周知・啓発することです。
相談窓口を設けても、「相談すると立場が悪くなるのではないか」という不安が残れば、職員は声を上げられません。
この2項目は、相談体制を機能させる土台として、文書に明記し、周知することが求められます。
参考:厚生労働省「厚生労働省告示第五十一号」
カスハラ対策の義務化で押さえる防止指針の対象範囲と判断基準

カスハラ対策の義務化で最初に決めるのが、どこからがカスハラかという線引きです。
指針は3つの要素をすべて満たすものをカスハラと定義しており、介護現場では障害者差別解消法との関係にも留意する必要があります。
個別の事例判断は別記事で詳しく扱います。
指針が定める範囲を、次の2点で確認します。
- 定義の3要素に当てはめて該当するかを判断する
- 障害者差別解消法の合理的配慮に留意して線引きする
判断に迷う場面ほど、基準を先に決めておくことが役立ちます。
定義の3要素に当てはめて該当するかを判断する
厚生労働省の指針では、以下の3つの要素を「すべて」満たすものをカスタマーハラスメントと定義しています。
- 顧客などからの言動であること
- 業務の性質や事情に照らし、社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
- 労働者の就業環境が害されること
対面だけでなく、電話やSNSなどインターネット上でおこなわれる言動も対象です。
該当し得る主な言動の例
- 理由のない要求、または対応が著しく困難な要求
- 暴行などの身体的な攻撃
- 暴言や脅迫などの精神的な攻撃
- 威圧的な言動
- 執拗で継続的な言動
- 長時間の拘束を伴う言動
具体的な事例や、正当なクレーム・苦情との境界線については、関連記事の「介護ハラスメント完全ガイド」で詳しく解説しています。
障害者差別解消法の合理的配慮に留意して線引きする
カスハラ対策を進める際は、障害者差別解消法が定める「不当な差別の禁止」と「合理的配慮の提供」に十分留意する必要があります。
介護現場での言動には、認知症の症状や障害特性が背景にある場合も多く存在します。
「カスハラ対策」を口実とした不当なサービスの制限や差別的対応を防ぐため、基本方針や対応ルールへ本留意事項を盛り込んでおきましょう。
認知症の周辺症状に起因する言動の見極めや現場での具体的な判断例は「介護ハラスメント完全ガイド」をご参照ください。
カスハラ対策の義務化に向けて防止方針と関連規程を整えよう

カスハラ対策義務化への対応は、防止方針を1枚作れば完了するものではありません。
「就業規則」「運営規程」「対応マニュアル」のどこに何を書くかまで決めて、はじめて運用できる状態になります。
公的なひな形が用意されているため、ゼロから文章を考える必要はありません。
作成する文書と記載項目を、次の6点で確認します。
- 防止方針に入れる記載項目をそろえる
- 就業規則・服務規律にどこまで反映するか決める
- 運営規程に記載する内容を決める
- 公的ひな形のどこを自事業所の文書に写すか決める
- 対応マニュアルに載せる項目をそろえる
- 文書の改定履歴と職員への周知記録を残す
文書づくりは、記載項目をそろえるところからはじまります。
防止方針に入れる記載項目をそろえる
防止方針は、事業所がカスハラを許容しない姿勢を内外に示す土台の文書です。
記載項目は次のとおりです。
- 目的(職員の就業環境とサービス提供を守ること)
- カスタマーハラスメントの定義(指針の3要素にもとづく)
- 対象となる言動の例(身体的な攻撃、精神的な攻撃、継続的・執拗な言動など)
- 事業所の対応姿勢(毅然とした態度で対応し、職員を保護すること)
- 相談窓口(名称と担当者)
- 特に悪質な事案への対処
- 相談者のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止
- 周知の方法(掲示・配布・研修)
この一覧をそのまま目次にすれば、方針の骨子が固まります。
就業規則・服務規律にどこまで反映するか決める
方針を作ったら、就業規則・服務規律への反映範囲を決めます。
相談窓口の位置づけ、相談を理由とする不利益取扱いの禁止、発生時の報告の扱いなどを就業規則側にも位置づけておくと、方針と規則の間に食い違いがなくなります。
方針にだけ書いて就業規則には何も触れない状態は避けましょう。
改定した規則は、掲示や配布などで全職員に周知するところまでが対応です。
運営規程に記載する内容を決める
運営規程への記載自体は、カスハラ防止指針が定める独立した法定義務ではありません。
ただし、カスハラへの対応方針や、利用者・家族にも関わる事項を事業所内外で共有する実務上の方法の1つとして、運営規程へ反映することが考えられます。
介護保険制度側では、令和6年度介護報酬改定により、運営規程等の重要事項をWebサイトに掲載することが義務化されています(2025年4月1日から)。
運営規程に記載した場合は、Webサイト掲載を通じて利用者・家族への周知にもつながります。
(利用者・家族への方針周知は指針上の必須措置ではありませんが、被害防止に有効な取組として示されています)
なお、重要事項説明書や利用契約書へのハラスメント条項の反映は、関連記事の「介護ハラスメント完全ガイド」で具体的に解説しています。
公的ひな形のどこを自事業所の文書に写すか決める
方針や規程の文章は、ゼロから書く必要はありません。
厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」や「管理者向け研修のための手引き」「職員向け研修のための手引き」には、事業所の方針や対応ルールを検討する際に参考となる記載例が掲載されています。
厚生労働省(老健局)の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」や研修の手引きといった公的資料には、方針や対応ルールの記載例が含まれています。
使い方のコツは、そのまま写す部分と、自事業所の実情に書き換える部分を分けることです。
定義や対応姿勢はほぼそのまま使えますが、相談窓口の担当者、報告のルート、対象サービスの種類は、自事業所の体制に合わせた書き換えが必要です。
転記後は、窓口名や担当者がひな形の文言のまま残っていないかを点検しましょう。
対応マニュアルに載せる項目をそろえる
発生時に職員が個人の判断で動く状態を避けるため、対応マニュアルには次の項目をそろえます。
- 初動対応(その場での安全確保と管理者への連絡)
- 報告と情報共有のルート
- 外部機関(警察・保険者など)との連携
- 被害職員への配慮
- サービス提供の見直し(継続可否の検討)
各項目の具体的な手順(退避の判断、通報、契約解除の進め方など)は、介護ハラスメント完全ガイドで詳しく解説しています。
文書の改定履歴と職員への周知記録を残す
作成した文書は、いつ改定し、いつ誰に周知したかの記録もセットで残します。
方針の末尾に制定日・改定日を記載し、周知した日付・方法(掲示・配布・研修)・対象者を一覧にしておく形で構いません。
措置①②は方針を定めて周知するところまでが義務のため、「文書を作った日」と「職員に伝えた日」を残しておけば、あとから履行状況を説明できます。
カスハラ対策の義務化に向けて事業所内の相談窓口と記録様式を整えよう

カスハラ対策の義務化では、事業所内の相談窓口(法人本部や外部機関への委託を含む)をあらかじめ定めて職員に周知することが求められます。
外部の相談先を案内するだけでは、この措置を満たしたことになりません。
窓口と記録の様式がつながっていなければ、現場で起きた出来事は管理者まで届きません。
窓口と記録の設計を、次の5点で進めましょう。
- 相談窓口の担当者を誰にするか決める
- 小規模な事業所で窓口を置くときの工夫を知る
- 相談を受けた内容が管理者まで届く導線をつくる
- 相談・記録様式を文書として定める
- 相談したことを理由に不利益に扱わないと文書で定める
窓口と記録の整備は、職員が声を上げられるかどうかを左右します。
相談窓口の担当者を誰にするか決める
事業所内の相談窓口は、管理者が担当する形が現実的です。
ただし、管理者自身が対応の場面に関わっていた場合、職員が相談しにくくなる課題があります。
複数名を置く、法人本部の窓口を併用するなど、相談者が相談先を選べる形にすると機能しやすくなります。
担当者を決めたら、名前と連絡方法を明示して職員に周知します。
窓口はあるが誰に言えばよいのかわからない、という状態では、措置③を満たしたことになりません。
小規模な事業所で窓口を置くときの工夫
職員数が少ない小規模事業所では、事業所内だけで相談対応を完結させることが難しいケースも少なくありません。
そのような場合は、法人本部へ窓口を集約したり、同一法人内の別事業所と連携して相互に担当者を置いたりするなどの方法が効果的です。
また、外部の相談窓口を活用することも可能です。
ハラスメント対策の所管窓口である都道府県労働局の「雇用環境・均等部(室)」では、事業主・労働者の双方からの相談を受け付けています。
担当者の心理的・実務的な負担にも配慮しながら、組織の規模に応じた無理のない体制づくりから進めていきましょう。
相談を受けた内容が管理者まで届く導線をつくる
相談や現場での出来事が、職員個人の抱え込みで止まってしまうと、事業所としての対応をはじめられません。
現場で起きた客観的事実が、速やかに管理者へ届く仕組みを整えておく必要があります。
相談・記録様式を文書として定める
相談票・記録票の作成自体は、独立した法定義務ではありません。
ただし、事実確認や事後対応を迅速かつ正確に進める実務上の方法として、様式を先に決めておくと、誰が記録しても同じ項目が残ります。
設ける欄は次のとおりです。
- 発生日時・場所
- 対象者(利用者・家族など)
- 言動の内容
- 居合わせた職員
- その場の対応
- 報告先と報告日時
- 事後対応の内容
- 被害職員の状態
様式は1枚に収まる簡単なもので構いません。
客観的な記録は、事実確認(措置⑤)や、トラブルが起きた際に外部機関へ相談する証拠にもなります。
記入のしかたや書き方のコツは、関連記事の「介護ハラスメント完全ガイド」で解説しています。
相談したことを理由に不利益に扱わないと文書で定める
指針(措置⑨⑩)では、「相談者のプライバシー保護」と「相談を理由とする不利益な取扱いの禁止」を方針や就業規則に定め、職員へ周知することが義務づけられています。
ここで留意したいのが情報の取り扱いです。
現場での「事実記録」は業務上共有する必要がありますが、窓口に寄せられた「相談内容そのものや詳細な面談記録」は、担当者や管理者など限られた人のみが閲覧できるよう管理を分ける必要があります。
「相談したことが周囲に漏れない」
「相談しても不利益を被らない」
という心理的安全性があってこそ、職員は安心して窓口を頼ることができます。
カスハラ対策と同時に義務化される「求職者等」へのセクハラ対策もあわせて確認

カスハラ対策の義務化と同じ2026年10月1日から、「求職者等」に対するセクシュアルハラスメント対策も事業主の義務になります。
介護事業所では実習生の受け入れが日常的にあるため、こちらも対象です。
2つを別々に進めると、同じ文書を二度作ることになります。
あわせて整える内容を、次の3点で確認します。
- 「求職者等」に介護実習生が含まれることを確認する
- 求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化する
- カスハラ対策の文書と一体で整える
実習生を受け入れている事業所では、求職者等へのセクハラ対策についても準備が必要です。
「求職者等」に介護実習生が含まれることを確認する
根拠は改正男女雇用機会均等法と、令和8年2月26日に告示された指針です。
ここでいう「求職者等」には、就職活動中の学生などに加えて、「教育実習、看護実習その他の実習を受ける者」が含まれます。
介護福祉士養成校などから実習生を受け入れている介護事業所は、採用面接の場面だけでなく、実習の受け入れそのものがこの義務の対象になります。
求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化する
求職者等セクハラ対策の措置は11項目で、方針の明確化・周知啓発や相談窓口の設定・周知などに加えて、求職活動等に関するルールの明確化が含まれます。
具体的には、「面談の時間・場所の指定」「実施体制、やり取りに用いるSNSの種類の指定」など、求職者や実習生と接する際の規則をあらかじめ定めて周知します。
面接や実習指導を担当する職員にこのルールを伝えるところまでが対応です。
カスハラ対策の文書と一体で整える
カスハラ対策と求職者等セクハラ対策は、「方針の明確化」「相談窓口」「事後対応」「プライバシー保護・不利益取扱いの禁止」という共通の枠組みを持っています。
別々の文書を二度作るのではなく、ハラスメント対策の方針・規程のなかに両方を位置づけ、相談窓口も共通にすれば、作成も周知も一度で済みます。
カスハラ対策における職員研修の位置づけと記録方法を決めよう

カスハラ対策の義務化では、方針や対処の内容を職員へ周知することが措置に含まれます。
研修そのものが単独の義務として名指しされているわけではないため、位置づけを取り違えやすい部分です。
研修の記録は、事業所が対応してきた証拠としても意味を持ちます。
研修の位置づけと記録を、次の3点で決めます。
- カスハラ対策の研修が義務にあたるのかを確認する
- 相談窓口担当者へ追加で伝える内容を決める
- 研修記録と実施報告の残し方を決める
研修を実施する場合は、一度きりで終わらせず、記録まで残す前提で組み立てましょう。
カスハラ対策の研修が義務にあたるのかを確認する
研修は、単独の法定義務ではありません。
方針・対処内容の周知(措置②)や、相談窓口担当者が適切に対応できる状態の確保(措置④)に有効な方法の一つですが、指針では、規程やマニュアルによる周知、関係部門との連携など、研修以外の方法も例示されています。
事業所は、自らの規模や体制に応じて、これらの方法を単独または組み合わせて実施できます。
研修を選ぶ場合は、厚生労働省が公開している動画教材や事例集などを活用し、理解度を確認するとよいでしょう。
効果的な研修の進め方や教材の具体的な活用法は、関連記事の「介護ハラスメント完全ガイド」で解説しています。
相談窓口担当者へ追加で伝える内容を決める
一般の職員向けの研修とは別に、相談窓口の担当者には追加の内容を伝えます。
措置④が求めるのは、担当者が相談に適切に対応できる状態だからです。
具体的には、次の4つです。
- 相談の受け方
- 事実確認の進め方
- 被害職員への配慮のしかた
- 特に悪質な事案の判断と外部機関との連携
担当者は人数が限られるため、集合研修の形でなくても、個別の打ち合わせで構いません。
伝えた内容と日付は、研修記録に含めておきましょう。
研修記録と実施報告の残し方を決める
研修は実施して終わりではなく、記録を残すところまでがひとつの対応です。
残す項目は、以下のとおりです。
- 実施日
- 対象者
- 内容
- 使用した資料
- 参加者の理解確認
この記録があれば、方針と対処内容の周知・啓発(措置②)をおこなった事実をあとから示せます。
運営指導などの際にも、実施日と参加者が残った実施報告は、対応を客観的に説明する材料になり得るでしょう。
研修を実装方法として選ぶ場合は、年1回など定期的な実施と記録をセットで組み込むと、継続的な周知と対応力の維持に役立ちます。
カスハラ対策の義務を怠った介護事業所が抱えるリスク

カスハラ対策の義務化に対応しない介護事業所は、3つのリスクを抱えます。
リスクの重さがわかれば、準備の優先順位を決められます。
罰則が直接科される仕組みではない点も、あわせて押さえてください。
ただし、対応していない状態が続けば、別の形で影響が表れます。
| リスク区分 | 内容 |
|---|---|
| 行政上のリスク | 都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名の公表につながり得る |
| 民事上のリスク | 職員が被害を受けたにもかかわらず対応しなかった場合、安全配慮義務違反として責任を問われる可能性がある |
| 経営上のリスク | 職員の離職が進み、人材確保が難しくなる。求人・利用者確保の双方に影響する |
対策を怠ると、行政対応だけでなく、職員の安全や事業所の運営にも影響します。
こうしたリスクを避けるため、次は施行日までの準備を逆算して確認しましょう。
カスハラ対策義務化への準備を2026年10月1日から逆算しよう

施行日である2026年10月1日までの期間を確認し、残された時間に応じて準備を進めましょう。
「方針」「規程」「窓口」「記録」「マニュアル」「研修」をすべて同時に進めるのは現実的ではないため、着手順を決める必要があります。
文書の作成と職員への周知は、順番を逆にすると手戻りが起きます。
残りの期間を、次の5段階に分けて割り振ります。
- 近日中に方針と担当者を決めて着手する
- 9月前半に規程・マニュアルを仕上げる
- 9月後半に職員への周知と、選択した実装方法の準備を終える
- 10月1日以降に運用と記録を続ける
- 準備状況チェックリストで抜け漏れを確認する
残り約1ヵ月を、逆算して割り振っていきましょう。
近日中に方針と担当者を決めて着手する
近日中におこなうのは、決める作業です。
具体的には次の4点。
- カスハラ対応の責任者を決める
- 事業所内の相談窓口の担当者を決める
- 防止方針の骨子を作る
- 既存のハラスメント関連文書(方針・就業規則・運営規程・研修資料)を棚卸しする
この段階では文書の完成度は問いません。
誰が進めるか、どこを直せば済むかが見えていれば、9月は書く作業に集中できます。
9月前半に規程・マニュアルを仕上げる
9月前半は、文書を仕上げる期間です。
防止方針の確定、就業規則・運営規程の改定、対応マニュアルの作成、相談記録票の様式確定までを終えます。
改定した文書には制定日・改定日を入れ、掲示物や配布物、研修資料といった周知の準備まで進めておきます。
9月後半に職員への周知と、選択した実装方法の準備を終える
9月後半は、伝える期間です。
全職員への法定の周知をおこない、研修を実装方法として選ぶ場合は実施・記録まで進めましょう。
利用者・家族への周知をおこなう場合は周知文書を準備し、実習生を受け入れている場合は求職者等セクハラ対策のルールも整えます。
法定の周知と、事業所が選択した実装方法の準備を終えて、10月1日を迎えられる状態にします。
10月1日以降に運用と記録を続ける
施行日を過ぎたら、相談と記録の運用をはじめましょう。
事案が発生したらマニュアルに沿って対応し、振り返って方針を見直します。
研修を実装方法として選ぶ場合は、年1回など定期的に実施し、記録を残すとよいでしょう。
対応は10月1日で完了ではなく、運用と見直しを続けることで職員を守る仕組みとして機能します。
準備状況チェックリストで抜け漏れを確認する
最後に、指針の措置10項目に対応したチェックリストで、準備の抜け漏れを確認しましょう。
| 番号 | 確認項目 | 対応する措置 |
|---|---|---|
| 1 | カスハラに毅然と対応し職員を保護する方針を文書にした | 措置① |
| 2 | カスハラの内容と対処の内容を職員に周知した | 措置② |
| 3 | 事業所内の相談窓口と担当者を決めて周知した | 措置③ |
| 4 | 窓口担当者に相談対応の進め方を伝えた | 措置④ |
| 5 | 発生時に事実確認をおこなう手順を決めた | 措置⑤ |
| 6 | 被害職員への配慮の進め方を決めた | 措置⑥ |
| 7 | 再発防止を検討する流れを決めた | 措置⑦ |
| 8 | 特に悪質な事案への対処方針を定めて周知した | 措置⑧ |
| 9 | 相談者のプライバシー保護の措置を定めて周知した | 措置⑨ |
| 10 | 相談を理由とする不利益取扱いの禁止を定めて周知した | 措置⑩ |
10項目すべてにチェックが付けば、指針が求める措置はひととおり形になっています。
カスハラ対策の義務化と介護に関するよくある質問

カスハラ対策義務化について、介護事業所から特に多く寄せられる疑問をまとめました。
制度の説明だけでは判断しにくい、対象範囲や研修の扱い、窓口の兼務といった実務上の線引きに絞って回答します。
迷いやすい点から順に、6つの質問に回答します。
介護事業所のカスハラ対策義務化はいつからはじまりますか?
2026年(令和8年)10月1日からです。
根拠は改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)で、措置の内容はカスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)に定められています。
施行日までに方針・窓口・文書の準備が必要です。
カスハラ対策の義務化は訪問介護や通所介護も対象になりますか?
対象になります。
労働者を1人でも雇用していればすべての事業主が対象で、サービス種別・規模・法人格による例外はありません。
訪問介護や通所介護などの在宅サービスも、施設サービスと同じく2026年10月1日から義務の対象です。
介護ハラスメント研修は義務化されていますか?
研修は、単独の法定義務ではありません。
方針・対処内容の周知(措置②)や、相談窓口担当者の対応力を確保する有力な方法の1つですが、規程・マニュアルによる周知や関係部門との連携など、ほかの方法も指針上認められています。
研修を実施する場合は、実施記録もあわせて残すとよいでしょう。
介護実習生や求職者へのセクハラ対策も同時に義務化されますか?
義務化されます。
同じ2026年10月1日から、改正男女雇用機会均等法により求職者等へのセクハラ対策が事業主の義務になります。
「求職者等」には教育実習・看護実習その他の実習を受ける者が含まれるため、介護実習生の受け入れも対象です。
カスハラの相談窓口は管理者が兼務してもよいですか?
兼務自体は妨げられません。
ただし、管理者自身が対応の場面に関わるケースでは相談先として機能しにくいため、複数名の担当者を置く、法人本部の窓口を併用するなど、相談者が選べる形にしておくのが現実的です。
担当者名と連絡方法の周知までをセットでおこないましょう。
10月1日までに準備が間に合わない場合はどうなりますか?
違反に対して罰則が直接科される仕組みではありませんが、都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり得ます。
放置せず、防止方針の作成と相談窓口の設置という土台から優先して着手し、残りの措置を順次整えていきましょう。
【まとめ】カスハラ対策の義務化に向けて介護事業所が今日決めること

カスハラ対策義務化は2026年10月1日からはじまり、労働者を雇用するすべての介護事業者が対象です。
この記事で提案する実務上の準備例は、次の5つです。
- 防止方針・規程の整備
- 相談窓口の設置
- 記録様式の整備
- 職員研修
- 職員・利用者などへの周知
このうち、記録様式の作成や研修そのもの、利用者・家族への周知、運営規程への記載は、それぞれが独立した法定義務ではなく、指針の10措置を事業所で実装するための方法です。
まずは対応責任者と相談窓口の担当者を決め、9月中に必要な文書と運用体制を整えましょう。
今回の義務化の根拠は、介護報酬改定ではなく改正労働施策総合推進法です。
防止指針が定める10項目すべてへの対応が必要で、外部窓口を案内するだけでは足りません。
また、実習生を受け入れる事業所では、同日に義務化される求職者等へのセクハラ対策もあわせて進める必要があります。
決めた内容を文書に残して終わりではなく、相談・記録の運用と、発生時の事実確認・被害職員への配慮・再発防止を継続することが必要です。
カスハラ対応は、現場の気づきが客観的な記録として残り、管理者まで届く仕組みがあってはじめて機能します。

