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介護ハラスメント完全ガイド!定義・事例・認知症との線引きを徹底解説

「利用者の暴力は認知症の症状だから、プロとして受け止めるべき」
かつて美徳とされたこの精神論が、今、現場の職員を追い詰め、離職の連鎖を引き起こしています。
2026年にはカスタマーハラスメント対策の法制化も見込まれるなか、介護現場は「我慢」から「組織的な防衛」へと舵を切らなければなりません。
しかし、事業所の管理者が最も悩むのは「どこまでが許容範囲で、どこからがハラスメントなのか」という明確な線引きではないでしょうか。
この記事では、厚生労働省の指針に基づき、介護ハラスメント(介護のカスタマーハラスメント)の現状から、判断に迷う「認知症の周辺症状(BPSD)との線引き」、そして職員を守るための「具体的な対応フロー」までを徹底解説します。
「職員を守りたいが、根拠を持って対応できない」
「利用者のご家族とのトラブルが怖い」
そう感じる管理者の方へ。
曖昧な判断基準を捨て、組織と職員を守るための「新しい常識」を手に入れてください。
介護ハラスメントとは?「カスタマーハラスメント」の定義と現状

「介護ハラスメント」という言葉に、実は厚生労働省などによる公的な定義はありません。
一般的には、介護現場における「カスタマーハラスメント(カスハラ)」を指す総称・通称として使われています。
介護ハラスメントとは、介護施設や在宅ケア(訪問介護や訪問看護)において、介護職員・ヘルパー・看護職員など介護側に対する、サービス利用者または利用者の家族による各種ハラスメントや暴力などの加害行為の総称です。
引用:Wikipedia「介護ハラスメント」
これまで介護現場では、利用者からの暴言や暴力があっても、「高齢者の力なら叩かれても大丈夫」「仕事だから仕方がない」「そのうち慣れる」などと、軽視されがちでした。
しかし、これらは現在、組織として対策すべき重要な安全管理上の課題とされています。
2021年(令和3年)4月の介護報酬改定で、すべての介護サービス事業所にハラスメント対策が義務化されました。
ただし、利用者や家族から職員が受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、「望ましい措置(推奨)」の位置づけでした。
その後、状況は大きく変わります。
2025年6月に労働施策総合推進法などが改正され、介護事業者を含むすべての事業主に対し、カスタマーハラスメント防止対策を講じることが法律上の義務として明記されました。
施行日は2026年10月1日が予定されています。
「施行までは義務ではない」と放置してよいわけではありません。
対策を怠り、職員が心身の不調をきたした場合、施行前であっても事業者は「安全配慮義務違反」として法的責任を問われるリスクがあります。
職員の離職を防ぎ、安定した事業運営を続けるためにも、正しい定義と最新の法改正情報を理解しておきましょう。
参考:厚生労働省「令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部改正について」「介護現場におけるハラスメント対策」「介護人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営改善支援等」
具体的に何が該当する?介護ハラスメントの「3つの分類」
介護ハラスメント(介護におけるカスタマーハラスメント)は主に次の3つに分類されます。
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 身体的暴力 | 叩く・蹴る・つねる・物を投げつける・唾を吐くなど。(たとえ怪我をしなくても、身体への攻撃があれば該当) |
| 精神的暴力 | 大声で怒鳴る・威圧的な態度をとる・「バカ」「辞めろ」「給料泥棒」などの暴言・無視する・特定の職員を長時間拘束して説教する・土下座を強要するなど 【主に利用者の家族から多い例】 ✓過度・無理な要求(契約外のサービスや、制度上不可能な対応を強要する) ✓特別扱いの強要(「うちの親を最優先にしろ」「特定の職員以外は拒否する」など) ✓憶測でのクレーム(事実確認をせず「職員がいじめた」「物を盗んだ」と決めつけて責める) |
| セクシャルハラスメント | 不必要に身体(胸や腰など)に触る・抱きつく・性的な冗談や発言を繰り返す・性的な関係を迫るなど。 |
参考:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
これらの行為は、決して許容されるものではありません。
しかし、実際の現場では「強い口調の苦情」など、ハラスメントかどうかの判断に迷うグレーゾーンも多々あります。
どこからがアウト?「正当なクレーム」との線引き基準
現場で迷いやすいのが「正当なクレーム」との線引きです。
判断のポイントは「要求内容の妥当性」と「手段・態様の相当性」です。
たとえ「ケアの手順が違った」という指摘内容自体に理があっても、それを伝える手段が、「暴力を振るう」「土下座を強要する」「長時間怒鳴り続ける」などの場合は、社会通念上相当な範囲を超えており、ハラスメントに該当します。
このように、利用者からの要求が「正当な範囲」を超えているかを見極めることが、職員を守る第一歩です。
なお、この記事の主題は「対利用者」のハラスメントですが、2021年の法改正では「職場内(職員間)」のハラスメント対策にも触れられています。
管理者として見落としてはならない「内部のリスク」についても、次の章で簡単にお伝えします。
【介護ハラスメントとあわせて確認】職員間で起きる職場内ハラスメント

介護現場における職員側が被害に遭うハラスメント対策では、利用者やその家族から受ける介護ハラスメント(介護におけるカスタマーハラスメント)に目が向きがちですが、事業所としては職員同士の人間関係にも注意を払う必要があります。
2020年(令和2年)の法改正(パワハラ防止法)により、介護事業所にも職員間のハラスメント防止措置が義務付けられました。
介護現場は閉鎖的な空間になりやすく、また「ケアの手順」や「利用者のための正義」に対する個人のこだわりが生じ、指導のつもりが行き過ぎてパワハラになるケースがあります。
管理者が知っておくべき、主な職場内ハラスメントは次の8つです。
| 種類 | 概要 | 介護現場で起こりやすい例 |
|---|---|---|
| パワーハラスメント(パワハラ) | 職務上の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える行為。 | 人手不足を理由に長時間残業を強要する、ミスを皆の前で執拗に叱責する、特定職員だけ介助量の重いフロアを固定する |
| セクシャルハラスメント(セクハラ) | 性的な言動により、就業環境を害する行為。 | 体型や容姿への発言、業務と無関係な身体接触、恋愛・私生活に踏み込む質問を繰り返す |
| マタニティハラスメント(マタハラ) | 妊娠・出産・育児休業等の利用を理由とした嫌がらせ。 | 産休・育休や時短勤務の申請に対し「迷惑」「辞めたら」と圧力をかける、配置や評価で不利益に扱う |
| モラルハラスメント(モラハラ) | 人格否定や無視、陰口などで精神的苦痛を与える行為。 | 申し送りで意図的に情報を外す、挨拶を返さない、ミスを誇張して噂を流す、特定職員だけ仲間外れにする |
| カスタマーハラスメントへの「押し付け」ハラスメント | 対利用者・家族の理不尽対応を、特定職員に一方的に背負わせる行為。 | 「あの家族は君の担当だから」とエスカレーションせず放置し、暴言対応を固定化する |
| グレーハラスメント(グレハラ) | 叱責や指導を装い、受け手に威圧や萎縮を与える言動を繰り返す行為。 | 「教育だから」と大声で詰める、人格に触れる言い回しで反省文を書かせる、必要以上に「詰める」面談をする |
| アルコールハラスメント(アルハラ) | 飲酒の強要や、飲まない人への不利益・嘲笑など。 | 送別会での一気飲み強要、飲めない職員へのからかい、断ると評価に影響する雰囲気を作る |
| ワクチンハラスメント(ワクハラ) | ワクチン接種を強制したり、未接種を理由に不当な扱いをしたりすること。 | 接種の同調圧力、未接種者への中傷、根拠のない噂で勤務配置を不当に変える |
特に介護現場で問題になりやすいのが、ベテラン職員から新人・若手への「指導」のあり方です。
以下のような言動や態度に心当たりはありませんか。
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 経験則の押し付け | 「私のやり方が絶対だ」「そんなこともわからないのか」と、新人の意見を聞かずにマニュアル外の独自ルールを強要する。 |
| 人前での叱責 | 利用者の前や、他の職員がいるスタッフルームなどで、見せしめのように大声で怒鳴る。 |
| 無視・仲間外れ | 特定の職員への挨拶を無視する、業務連絡を回さないなど、意図的に人間関係から切り離す。 |
| 過干渉(個の侵害) | 「結婚はまだか」「子どもは作らないのか」など、業務に関係のない私生活に過度に踏み込む。 |
こうした職員間のハラスメントは、職場の空気を悪化させ、職員の定着率を大きく低下させます。
管理者は、対利用者のトラブルだけでなく、職員間のコミュニケーションにもアンテナを張り、小さな違和感でも相談できる環境づくりが求められます。
参考:「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」
介護ハラスメントか認知症の周辺症状か?判断の線引きと「安全配慮義務」に基づく対応基準

現場の職員や管理者が最も頭を悩ませるのが「認知症の周辺症状(BPSD)による暴力や暴言」です。
「病気だから仕方ない」「専門職なら受容すべき」と我慢するのではなく、厚生労働省の指針に基づき、以下の2つの視点から対応基準を解説します。
- 身体的暴力と精神的暴力を区別する(意図の有無)
- 組織として守るべき「安全配慮義務」を実践する
医学的な判断と組織的な対応を明確に切り分け、職員を守るための基準を詳しくみていきましょう。
身体的暴力と精神的暴力を区別する(意図の有無)
厚生労働省のマニュアルでは、利用者の迷惑行為について、病気や障害の影響によるものかどうか(責任能力・意図の有無)を考慮する必要があるとしています。
ただし、「症状だから何も対応しなくてよい」という意味ではありません。
対応は、行為の性質(身体的か精神的か)によって区別されます。
1. 身体的暴力・セクハラの場合
意図の有無に関わらず、ハラスメント対策と同様の対応(職員の保護)が必要です。
たとえ認知症の症状であっても、職員が怪我をしたり尊厳を傷つけられたりするリスクがある以上、組織として放置することは許されません。
2. 精神的暴力(暴言など)の場合
意図が明確でない(症状による)場合は、直ちにハラスメントとは断定せず、ケアのアプローチ(環境調整や医学的対応)で解決を図ります。
ただし、ケアによる改善が見込めず、職員の精神的負担が限界を超える場合は、担当変更やサービス調整などの「組織的な回避措置」が必要です。
どのようなケースであれ、「認知症の症状だから」という理由だけで現場職員に自己犠牲を強いてはなりません。
参考:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
現場で最優先すべきは「ハラスメントの定義に当てはまるか」という議論ではなく、「目の前の職員が安全かどうか」という事実です。
なぜなら、事業者には「安全配慮義務」という、労働者を危険から守る重要な義務があるからです。
組織として守るべき「安全配慮義務」を実践する
安全配慮義務とは、ハラスメントの定義以前に、事業者が労働者の生命・身体の安全を確保するために負う法的責任です。
労働契約法第5条には、以下のように定められています。
労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮)
引用:厚生労働省「労働契約法(平成19年12月05日法律第128号)」「労働契約法のあらまし」
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
たとえ利用者の行為が「認知症の症状(意図なし)」であっても、職員の安全が脅かされている状態を放置すれば、事業者は「安全配慮義務違反」として法的責任(損害賠償など)を問われる可能性があります。
「認知症だからハラスメントではない(=利用者は悪くない)」という医学的な事実と、「だから職員は我慢しなければならない(=組織は守らない)」という判断は、まったく別の問題です。
管理者は、「利用者を責めなくてもいいが、職員を危険な状態のままにしてはいけない」という考え方を大切にし、必要に応じて対応の見直しや契約の終了、職員の配置変更などをおこなってください。
具体例で学ぶ介護ハラスメント | 精神的に追い込まれるケースとは

ここでは、実際に介護現場で発生しやすく、職員を精神的に追い詰める具体的な介護ハラスメントの事例を紹介します。
「自分ならどう対応するか」をシミュレーションしながら読み進めてください。
自事業所の状況と照らし合わせ、リスクの早期発見に役立てましょう。
訪問介護・看護における事例(重要事項説明書の活用)
訪問系サービスは、施設とは異なり「密室」で「一対一」となるため、ハラスメント被害が潜在化しやすく、職員の精神的負担が高いのが特徴です。
【事例:密室でのセクハラと泥棒扱い】
訪問ヘルパーのAさんは、利用者(独居男性)から、介助のたびに身体を触られる、卑猥な言葉を投げかけられるといったセクハラ被害に遭っていました。
Aさんが拒絶すると、今度は「財布がない、お前が盗ったんだろう」と毎回のように怒鳴られ、泥棒扱いされるようになりました。恐怖で訪問に行けなくなったAさんに対し、管理者は「認知症だからうまくかわして」というだけで、具体的な対策を講じませんでした。
【解説と対策:重要事項説明書が「盾」になる】
このケースの問題点は、密室での恐怖を放置した事業所の対応にあります。
対策として最も有効なのは、サービス契約時に交わす「重要事項説明書」へのハラスメント条項の明記です。
- 事前の防衛策:「職員に対するハラスメント行為(暴力・暴言・セクハラなど)があった場合、サービスの提供を停止、または契約を解除することがある」という文言を盛り込みます。
- 契約時の説明:契約時に管理者やサ責(サービス担当責任者)が、利用者・家族へ「重要事項説明書」の条項を読み上げ、同意を得ておくことが重要です。
あらかじめ「ルール」として明示しておくことで、いざ問題が発生した際に、毅然とした態度で指導や契約解除の交渉をおこなう法的根拠(盾)となります。
精神的攻撃・過大な要求(クレーマー)の事例
「カスタマーハラスメント(カスハラ)」として特に問題視されているのが、正当なクレームの範囲を逸脱した、執拗な攻撃や過大な要求です。
【事例:長時間拘束と土下座の強要】
特別養護老人ホームの相談員Bさんは、利用者の家族から「母の背中にあざがある。お前の扱いが乱暴だからだ!」と激昂(げきこう)されました。
医師の診断で「皮下出血(老人性紫斑)」であり虐待ではないと説明しても聞き入れず、事務所に3時間も居座り、大声で罵倒され続けました。最終的に「誠意をみせろ、ここで土下座しろ」と強要され、Bさんや管理者は言われるまま土下座してしまいました。
【解説と対策:組織として「線」を引く】
これは、苦情対応の範疇(はんちゅう)を超えた明らかなハラスメントです。
- 長時間拘束:不退去罪に該当する可能性があります。
- 土下座の強要:強要罪に該当する可能性があります。
こうした「理不尽な要求」に対し、現場の個人の接遇スキルだけで解決しようとさせるのは危険です。
事業所として「ここまでは誠意を持って対応するが、これ以上(暴力・暴言・強要)は警察や弁護士に相談する」という明確な線引き、被害に遭った職員を一人にせず、事業所全体で対応する体制が必要です。
【発生時フロー】介護ハラスメントから職員を守る初動対応と記録

ハラスメントが発生した際、現場と管理者はどう動くべきでしょうか。
感情的なトラブルを防ぎ、解決へ導くための対応フローは次の3つです。
- 【初動対応】職員の安全を最優先に確保する
- 【記録】5W1Hで事実を客観的に記録する
- 【事後対応】外部相談窓口を活用する(地域包括支援センターなど)
順を追ってみていきましょう。
【初動対応】職員の安全を最優先に確保する
現場でハラスメント(暴力・暴言・セクハラ)が発生した際、職員がすべき最初の行動は「謝罪」でも「説得」でもなく、「その場から離れて身を守ること」です。
- 物理的に距離をとる・逃げる
「利用者を置いて離れることは無責任ではないか」と躊躇(ちゅうちょ)するかもしれません。しかし、暴力の最中にケアを継続することは不可能です。まずは攻撃が届かない場所(別室や屋外・車内など)へ退避してください。これが自分自身を守り、さらなるトラブル拡大を防ぐ最善手です。
- 管理職への即時報告
退避後、直ちに管理者へ報告します。管理者は状況を聞き取り、「警察を呼ぶべきか」「家族へ連絡するか」の判断をおこないます。
- 複数名対応への切り替え
興奮状態の利用者に対して、一人で対応に戻らせてはいけません。必ず応援を呼び、複数名で対応します。訪問介護などで応援が呼べない場合は、その日のサービスを中止し、被害に遭った職員を交代するか、後日2名体制で訪問するなどの調整をおこないます。
参考:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
管理者は、「とりあえず謝ってきて」と職員を現場に戻してはいけません。
職員の安全確保と精神的ケアを最優先してください。
5W1Hで事実を客観的に記録する
ハラスメント対応において、あとで「言った言わない」の水掛け論を防ぎ、行政や弁護士が動くための根拠となるのが「客観的な記録」です。
「怖かった」「ひどいことを言われた」という主観的な記録ではなく、下記の5W1Hを押さえた事実を、専用のハラスメント報告書(チェックシート)や事故報告書に残します。
- When(いつ):○月○日、何時何分頃から何分間。
- Where(どこで):居室のベッドサイド、玄関先など。
- Who(誰が):利用者A氏が、職員Bに対して。(目撃者C職員も記載)
- What(何を): ×「暴力を振るわれた」 ○「左手で職員の髪を鷲づかみし、右手で拳を作り、職員の左目1回・左肩を2回殴打した」 ×「暴言を吐かれた」 ○「『お前は泥棒だ、警察に突き出すぞ』と大声で叫んだ」
- How(どのように):入浴介助を拒否された直後に、興奮して、など前後の文脈。
- Why(なぜ):推測される原因(※事実と区別して記載)。
人間の記憶は時間とともに曖昧になります。
「その場」または「直後」の記録をおすすめします。
【メモが取れない緊急時は録音が有効な証拠となる】
「暴れている最中にメモなど取れない」という場合、スマートフォンのボイスレコーダー機能などによる録音が極めて有効です。
「勝手に録音して法律的に大丈夫なのか?」と不安になる方も多いですが、ハラスメント被害の証明においては、以下のとおり「適法」かつ「有利」に働くケースがほとんどです。
- 原則として違法ではない(適法性)
自分が当事者である会話を、相手に無断で録音すること(秘密録音)は、ハラスメント被害を証明する正当な目的であれば、原則として違法とはみなされません。過去の判例でも、著しく反社会的な手段でない限り、自己防衛のための録音は正当な証拠収集活動として認められる傾向にあります。
- 強力な証拠能力を持つ
民事訴訟において、録音データは原則として証拠能力が認められます。「言った・言わない」のトラブルにおいて、暴言や脅迫の音声は決定的な証拠となります。
- 法的・組織的対応に有利
具体的な音声データがあれば、ハラスメントの事実認定が容易になり、損害賠償請求や、悪質な利用者の「契約解除」をおこなうための正当な根拠として有利に働きます。
【※取り扱いの絶対的注意点】
ただし、録音データはあくまで「身を守るための証拠」です。次の行為は決しておこなわないでください。
- SNSへの投稿・第三者への公開:名誉毀損やプライバシー侵害で逆に訴えられる可能性があります。
- データの編集・切り取り:改ざんを疑われ、証拠としての価値を失います。そのまま保存してください。
- 報告の遅れ:録音後は速やかに管理者に報告し、組織としての対応を仰いでください。
参考:大阪弁護士会「スマホで会話を秘密録音 許される?」
参考:企業法務ナビ「ニュース「パワハラに有効か、「秘密録音」の適法性について」」
参考:EMG総合法律事務所「パワハラ:民事訴訟における無断録音(秘密録音)の証拠能力」
事業所内で統一した「ハラスメント報告書」や「事故報告書」などを用意し、誰でも抜け漏れなく記録できる体制を整えておきましょう。
【事後対応】外部相談窓口を活用する(地域包括支援センターなど)
事業所内での対応だけでは解決が難しい場合は、外部機関の力を借りましょう。
【地域包括支援センター】
高齢者虐待への対応だけでなく、対応困難事例への支援もおこなっています。地域ケア会議などを通じて多職種と連携し、サービス内容の見直しや環境調整を図ります。
【市町村の介護保険課】
利用者の迷惑行為による「契約解除」や「サービス停止」を検討する際は、運営基準違反(正当な理由のない提供拒否)を避けるため、事前に市町村へ相談・報告します。行政の了解を得ることで、後のトラブルを防げます。
【都道府県の「運営適正化委員会」】
福祉サービスに関する苦情解決を専門とする、中立的な第三者機関です。当事者間での話し合いが平行線をたどる場合の仲介役となります。
【弁護士・警察】
身体的暴力・執拗な脅迫・不当な金銭要求・居座りなど、犯罪性がある場合はためらわず相談してください。傷害罪や威力業務妨害罪としての法的措置を検討します。
管理者は「外部に相談すると評判が下がる」と隠蔽するのではなく、「外部と連携してでも職員を守り抜く事業所である」という姿勢を明確に示すべきです。
それが、採用難の時代における信頼獲得につながります。
※職員個人の相談先
事業所の対策が不十分だと感じたり、相談しても事業所が改善してくれない場合は、職員個人が「総合労働相談コーナー(労働局)」や「労働基準監督署」へ相談することも可能です。
介護ハラスメント対策は厚生労働省のリソースを活用してマニュアル整備と内部研修を進めよう

義務化されたハラスメント対策において、マニュアル作成や研修準備を一から行うのは多大な労力がかかります。
厚生労働省が公開している「公式リソース」を活用し、以下の2つのアプローチで効率的に体制を整えましょう。
- 厚生労働省のマニュアルをベースに自事業所ルールを点検・更新する
- 厚生労働省の「動画教材・事例集」を活用する
行政の運営指導にも耐えうる、賢い活用方法を詳しく解説します。
厚生労働省のマニュアルをベースに自事業所ルールを点検・更新する
数年前に作成したマニュアルが、棚の奥で眠っていませんか?
または、一般的な就業規則のコピーだけで済ませていないでしょうか。
厚生労働省の公式サイトでは、「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」が公開されています。
ここには、ハラスメントの基本的な定義から、相談があった際の具体的な対応フロー、再発防止策までが網羅されています。
「そのまま使えるひな形」そのものは配布されていませんが、マニュアルや関連資料(管理者向け研修の手引きなど)には、「マニュアル作成の参考となる様式例」や「相談シートのテンプレート」が豊富です。
これらをダウンロードし、自事業所の実情や連絡先などに合わせてカスタマイズすることで、ゼロから作るよりもはるかに効率的に、行政の基準を満たした高水準なマニュアルを整備できます。
参考:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」
厚生労働省の「動画教材・事例集」を活用する
「研修準備の時間がない」「ただ資料を読み上げるだけになってしまう」そのような悩みを抱える担当者には、厚生労働省が公開している動画教材や事例集の活用がおすすめです。
YouTube公式チャンネル「MHLWchannel」の動画や「介護現場におけるハラスメント事例集」を活用すれば、内部研修の準備にかかる手間を大幅に削減できます。
<活用できるリソース例>
- 職員向け内部研修動画(YouTube)
ハラスメントの基礎知識やチェックリストなどの解説を視聴可能。検索窓に「介護ハラスメント」と入力すれば、すぐに関連動画が表示されます。

動画なら、再生するだけで研修を始められます。
視覚的に学べるため、職員の理解度向上にも効果的です。 - 介護現場におけるハラスメント事例集
厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント事例集」では、実際のハラスメント事例と、それに対する適切な対応策がまとめられています。
おすすめの進め方は、動画視聴後に事例集から自事業所に近いケースを1つ選び、「この場面ならどう対応するか」をグループで話し合う方法です。
これだけで、単なる座学よりも実践的で、職員の記憶に残る研修となります。
研修終了後は簡単な感想レポートを提出してもらい、保管しましょう。
運営指導において、「義務化された研修の実施証拠」として機能します。
参考:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」
【まとめ】介護ハラスメントの正しい定義と対応基準を共有し、職員を守る組織へ

この記事では、介護ハラスメントの定義や現状、認知症症状との線引き、そして具体的な対応フローについて解説しました。
- 認知症であっても「安全配慮義務」に基づき、職員を守る対応をとる
- 「逃げる」「複数で対応する」を徹底し、事実を詳細に記録する
- 厚生労働省のリソースを活用し、研修とマニュアル運用を効率化する
「ハラスメントは個人の問題ではなく、組織の問題である」という認識を、管理者だけでなく職員全員で共有することが、離職を防ぎ、事業所を守ることにつながります。
「正確な記録」と「心のゆとり」が、あらゆるハラスメントの抑止力になる

ハラスメント対策において、介護ソフトやアプリの活用は、2つの側面で効果を発揮します。
1つ目は、客観的な事実記録による「トラブルの未然防止」です。
利用者や家族とのトラブルの多くは、「言った言わない」や「ケア内容への認識のズレ」から生じます。
記憶に頼るのではなく、写真や詳細な記録で事実を「見える化」しておくことは、誤解を解き、利用者との信頼関係を守るための最も誠実な手段となります。
2つ目は、職場内ハラスメントの温床となる「ストレスの解消」です。
職員間の衝突や指導の行き過ぎ(パワハラ)は、過重労働による「精神的な余裕のなさ」や、情報共有不足による連携ミスが引き金になることが少なくありません。
ICTで業務負担を減らし、風通しをよくすることは、ハラスメントが起きにくい健全な職場を作る基盤となります。
「ファーストケア・ポータブル」や「ファーストケア・アサインPro/アサインモバイル」なら、現場が抱えるこれらの課題の解決をサポートできます。
【証拠となる「写真」も簡単に添付】
文章では伝わりにくい利用者の状況も、撮影してそのまま記録。介護ハラスメントの客観的証拠として機能します。
【音声入力で詳細な記録】
キーボード入力が苦手な職員でも、話すだけで詳細な状況報告が可能。記録の負担を極限まで減らします。
【情報共有のミス防止と残業削減】
入力データは即座に全体へ反映。「言った言わない」のトラブルを防ぎ、事務作業時間を減らすことで、職員の心に余裕を生み出します。
ハラスメントに負けない強い組織は、職員が安心して記録し、笑顔で働ける環境からです。
現場に選ばれ続けている「ファーストケア」シリーズの機能を、ぜひ一度お確かめください。

